AKIMASA.NET >> 細見谷渓畔林と十方山林道(出版計画)

 

<細見谷大規模林道問題・概要>


<第1節 細見谷渓畔林とは>

西中国山地国定公園

広島県廿日市市吉和の最奥に位置する広島・島根・山口三県境付近(吉和冠山〜寂地山)は、西中国山地の中心部にあたり、広島市の水がめである太田川の源流域の一つとなっている。そして、西中国山地は、三県境付近から広島・島根県境尾根(山頂部の標高約1000m〜1300m前後)を中心として、西中国山地国定公園(面積約285平方km)に指定(昭和44年、1969年)されている。

生物多様性情報システムホームページ(生物多様性センター、環境省自然環境局)によれば、「(西中国山地国定公園は)中国山地の西部の冠山山地と、その周辺にある渓谷群を含む公園です。冠山山地は阿佐山(1,218m)、臥竜山(1,223m)、恐羅漢山(1,346m)、冠山(1,339m)、寂地山(1,337m)などの山々で、いずれも隆起準平原の特徴を現し、山頂部はゆるやかですが、山腹面は急斜面をなし、そこに幾つもの美しい渓谷を介在させています」と説明されている。

細見谷

本書の主役である十方山そして細見谷も西中国山地国定公園に含まれている。細見谷は、広島・島根・山口三県境の北東5〜10km前後に位置しており、広島・島根県境尾根と、広島県側の十方山南西尾根にはさまれた狭間にある。この谷は、広島県内に多く見られる北東−南西系の断層に沿って発達した谷の一つであり、そこを流れる細見谷川もまた太田川源流の一つとなっている。

細見谷の標高は、細見谷川の流れに沿って約990〜730m位で、その両側の山頂部は、標高約1000〜1300m前後である。かつては、その標高差3〜400mの両側斜面全体が「冷温帯落葉広葉樹」(ブナなど)で覆われた"それはそれは深い森だった"という。

細見谷渓畔林

細見谷川の上流部両岸には、渓流沿いの美しい水辺林が発達している。これを細見谷渓畔林といい、最近になって、生物多様性の宝庫として注目を集めるようになっている。この渓畔林は、中四国で唯一のものであり、ブナ帯の自然林として生態学的に非常に特異な資源である。

しかしながら、細見谷渓畔林の範囲は非常にせまく、細見谷川沿いに長さ5km前後で幅は100〜200m位しかない。そこから山頂部にかけては、皆伐のうえ全て人工林化されており、渓畔林部分は、かろうじて残されているといった状態にある。

渓畔林とは

渓畔林(そして河畔林)とは、"EICネット:環境情報案内・交流サイト"によれば、「河川周辺の森林のうち、上流の狭い谷底や斜面にあるものを「渓畔林」、下流の氾濫原(洪水時に氾濫水に覆われる土地)にあるものを「河畔林」という。渓畔林にはケヤキやサワグルミ、シオジ、トチノキ、河畔林にはヤナギ類やハルニレなどが生育する」。さらに、

「渓畔林や河畔林は生態学的に重要な機能を持つ。具体的には、1)水面を覆って日射を遮断するため、水温が低く維持され、低温を好む魚類が生息できるようになる、2)葉や昆虫が河川に落ち、水生昆虫や魚類の餌となる、3)倒木が河川の中の生物の生息環境を豊かにする、4)森林伐採や洪水で発生した土砂が河川に流れ込むのを防ぐ―など」多面的な効果を有している。

ヒトとクマの棲み分け

西中国山地のブナは、ほぼ標高800mより上に生育しており、そこはかつてクマ(ツキノワグマ)の楽園であった。西中国山地では、標高800mを境にして、それより上の深山にすむツキノワグマと、それより下の里山で暮らす人々が棲み分ける生活がながく続いていたのである。


<第2節 十方山林道とは>

渓畔林部分

十方山林道(未舗装)は、細見谷渓畔林を貫いて走る林道で、細見谷川の右岸に沿ってつくられており、既に50年以上も前(昭和28年、1953年)に完成している。幅員3〜4mながら4トントラック走行可能であり、十方山・細見谷の林業に大きく貢献するものであった。

十方山林道の基点は、二軒小屋(戸河内側、標高約800m)である。そこから、南西方向の水越峠(標高約990m)をめざして登り、峠を越えると、やがて細見谷川(源流部)と接するようになる。そしてそのまま細見谷川に沿って、十方山南西尾根と恐羅漢山〜五里山(広島・島根県境尾根)で出来る谷間を、”祠”(山の神)の手前辺り(標高約740m)までゆるやかに下っていく。 林道整備計画における“渓畔林部分の計画延長4.6km”の間で、標高差はわずか200m程度に過ぎず、ゆったりと歩ける勾配になっている。

七曲部分

十方山林道は、”祠”(山の神)附近で左折する細見谷川と別れて、なおも南西方向を目差す。曲がりくねりながら、一旦高度を稼いで押ヶ峠(標高約890m)に至る。なお、ここでいう押ヶ峠は、立岩貯水池沿いの十方山南東面にある押ヶ峠断層帯(国指定の天然記念物)とは別の場所である。

押ヶ峠附近に至る林道は、短い距離の間に高度差があること、及び作業車輌の能力を考えて、できる限り勾配が少なくなるように曲がりくねって作られている。通称「七曲」と呼ばれるこの地域は、細見谷上流部の北東−南西系の断層に対して、北西―南東系の断層が交差する位置にあたっている。その結果、「七曲」部分及びその周辺地域では、地盤が著しい「ゆるみ」状態に達しており脆弱化している。

押ヶ峠を越えた十方山林道は、そこから国道488号線(主川沿い)へ向って下る。その国道との接点が、十方山林道最終地点の吉和西(標高約840m)である。


<第3節 林道整備計画の概要>

細見谷大規模林道工事

十方山林道(細見谷林道)を、「緑資源」幹線林道(旧・大規模林業圏開発林道)に組み込んで、拡幅舗装化(一部舗装化のみ、一部新設)しようとする幹線林道整備計画が進められている。従来から「十方山林道の大規模林道化工事」と称されていた工事のことである。 最近では、この工事のことは細見谷林道工事、あるいは細見谷大規模林道工事と呼ばれることの方が多くなっている。確かに、細見谷を走る林道(十方山林道)の大規模林道化という意味では、こちらの方が理解しやすいといえる。

林道整備計画の概要

「(細見谷)林道工事の実施に伴う影響の予測・評価及び保全措置を専門的、学術的な見地から検討」するため、緑資源機構によって設置された環境保全調査検討委員会が数度にわたって開かれた(第1回2004年6月4日)〜第9回(最終回)2005年11月28日)。その結果、環境保全調査報告書がとりまとめられ、以下のようなプレスリリース(平成17年12月27日、緑資源機構)が発表されている。

「緑資源幹線林道については、幅員7m(道路幅員5.5m)を基本。(地形の状況等によっては幅員5m(道路幅員4m))。これに対し本工事区間では、現地の自然状況等に応じて樹木の伐採や土地の改変量を必要最小限に抑制するよう林道の構造規格(幅員、待避所等)を柔軟に設定。

(1)拡幅部分(計画延長7.5km)
二軒小屋から渓畔林の起点に至る部分(3.8km)
・既設林道を利用して幅員5.0m(車道幅員4.0m)
新設区間の終点部分から吉和西地内の区間終点に至る部分(3.7km)
・既設林道を利用して幅員4.0m(車道幅員3.0m)

(2)渓畔林部分(計画延長4.6km)
・原則として既設林道の拡幅はしない(車道幅員3.0m)
・原則として大径木は伐採しない

(3)新設部分(計画延長1.1km)
渓畔林の終点から屈折した既設林道部分を避けて
再び既設林道に至る部分(1.1km)
・幅員4m(車道幅員3.0m)」。(引用ここまで)

林道工事の影響は軽微?

私は、この細見谷渓畔林を通る幹線林道の整備計画には反対である。なぜならば、林道工事が環境に与える影響は決して軽微なものではなく、再び取り戻すことの出来ない貴重な自然を失ってしまう危険性が高いことを危惧するからである。 細見谷の自然は、まだまだその全容が解明された訳ではない。基礎となるデータなくして、"林道工事の影響は軽微"と軽々しく結論付けることはできない。

費用対効果(B/C)はどうなっている

十方山林道部分(二軒小屋・吉和西工事区間)の規格は、通常の大規模林道(幅員7m、二車線)より幅員を狭くするよう変更されている。しかし、たとえそれがどのような規格になろうとも、林道である限り完成後は地元に移管され、地元で維持管理をしてゆかなければならないことに変わりはない。

この工事にはそもそも公益性があるのだろうか。費用対効果(B/C)について、確かな数値に基づく議論をすべき時にきている(本文「費用対効果、1.02」参照)。大規模林道化によってもたらされる利益と、林道建設および完成後の維持にかかるコストとのバランスを考えることである。財政逼迫の折、無駄な費用をかける余裕はどこにもない。*B/C=効果(Benefit)÷費用(Cost)

幹線林道建設の意義はすでに失われている

環境保全調査報告書によると、渓畔林部分については、“現在の車道幅員3mを維持し原則として拡幅はしない”となっている。これでは、おそらく大型バスの乗り入れは不可能だろう。車道幅員3mを維持する限り、レクリエーション等の地域振興など、当初の目的を果たすことはむつかしくなりそうだ。つまり、細見谷大規模林道の整備計画そのものは、この時点ですでに一部破綻しているといえる。

当地では、既存の十方山林道と平行して、すでに高速道路と国道そして県道の3本の道路が走っている。しかも十方山林道沿いに民家は一軒もなく、冬場は雪に閉ざされてしまう。さらに、夜間は夜行性動物保護のため通行止めにするのだという。

夜行性動物として、主にツキノワグマやニホンヒキガエルがあげられている。これら動物が完全に夜行性かどうかはさておき、毎朝夕のゲート開閉の方法およびそれにかかる費用など、検討すべき課題は多い。いずれにせよ、このように24時間365日利用することのできない道路では何のための整備計画かわからない。

環境保全調査検討委員会の委員の一人であった波田善夫・岡山理科大学教授は、最終委員会で別途意見書を読み上げた。その中で、「緑資源公団の姿勢は、「計画を放棄すること」以外のほとんどは委員会の意見に対応」した、として一定の評価を下している(「細見谷と十方山林道」(2006年)波田善夫P.8)。

しかしながら、それに続けて「高いレベルの自然に対して対応した結果、当該林道の一般的利用はほとんど望めない状況へと変質してしまった。近年の財政状況を考慮するならば、中止すべき公共事業の筆頭であろう」(同上P.8)と述べている。

緑資源機構の方針として、とにかく道路を作りたい。そのための妥協ならば何でもする、ということであろうか。しかし、その結果、対向車同士が離合できないような道路規格となっている。細見谷大規模林道工事は、計画段階ですでにその意義を失ってしまったといえるだろう。

民有地部分における林道整備

吉和に山林を所有する安田孝さん(林業家)は、合理的な計画経営を山林事業に取り入れている方である。雑誌「環・太田川」No.59,P.4-6のインタビュー記事では、安田さんの山林事業について次のように紹介されている。「(路網の整備によって)切った木を引きずり出す必要がなく、その場で枝を落とし、丸太に切ってすぐ2t車に積み込む作業が可能になった」。そして「(新型重機を導入して)伐採も他の山の管理作業も全部一人」でこなしている。(「」カッコ内、引用部分)

安田さんの山林事業を支えているのは、大型重機の採用とそれを運び入れることのできる林道、およびその林道から網の目のように張り巡らされた作業道等の整備である。

十方山林道が吉和側の国道488号とつながる部分の拡幅予定区間(計画延長3.7km)周辺では、民有林において植林事業が行われている。この林道を拡幅することによって、どのような林業が行われようとしているのであろうか。実りある成果を期待したいものである。

渓畔林部分の林道は今のままで十分

細見谷の渓畔林部分よりも上部(標高差3〜400m)は、そのほとんどが戦後の拡大造林によって、スギ・ヒノキといった針葉樹に置き換わっている。そこでは、国有林が大半を占めており、これら人工林はほとんど手入れがなされないまま、木材としての商品価値は全くないに等しいものとなっている。そして、この一帯の国有林では、新たな植林事業は何ら計画されていない。標高800mより上のブナ帯がスギ植林に適したものであったかどうかはさておいて、戦後の経済環境の変化は林業にとってあまりにも大きすぎたといえる。

私は、細見谷をクマの聖域(サンクチュアリ)に、という意見に賛成である。サンクチュアリの設置ということも踏まえて、細見谷の林業整備施策として針広混交林転換事業が提案されている。商品価値のなくなった人工林を強間伐することによって、少しづつ本来の落葉広葉樹林に置き換えてゆこうとするものである。

このとき、間伐剤を無理に林道まで引きずり出すのではなく、伐り置き(伐採したまま放置)や巻き枯らし(樹皮の下にある形成層を遮断して立ち木のまま枯らす)という省力的方法をとることも考えられる。既存の十方山林道を補修整備しながら使用することによって、そうした目的をはたすことは十分可能であろう。渓畔林部分については、何も高い税金を使って新たに大きな道路を作る必要はない。

自然は子孫からの預かりもの

細見谷渓畔林は、西中国山地の山懐に奇跡的に残された廿日市市吉和の宝である。それは、50年前の林野関係者が残してくれたものである。アメリカ・インディアンの古いことわざに、「自然とは、祖先から譲り受けたものではなく、子孫からの預かりもの」というのがあるという。 21世紀は環境の世紀、次世代への確実な資産の継承こそ現代人の務めというものであろう。税金はそのためにこそ有効活用したいものである。

細見谷を再び落葉広葉樹の深い森に還してやろうではないか。そこはクマをはじめ多くの動物たちが暮らす楽園となる。大人から子供まで楽しめる自然観察の場となる。現在ある十方山林道は未舗装のまま残そう。一般車両を通行止めにして部分補修しながら使用することで、十分にこれらの目的を達することができる。

"特別保護地区"指定を求める

工事中止に向けた第一歩として、細見谷渓畔林一帯を、現在の第2種特別地域から「西中国山地国定公園特別保護地区」に格上げするよう、広島県知事の英断を望むものである。


緑資源機構プレスリリース
http://www.green.go.jp/gyoumu/rindo/pdf/kankyo034.pdf

植物生態研究室(波田研)のホームページ
>>環境アセスメント関連>>細見谷林道レポート>>最終委員会提出の意見書
http://had0.big.ous.ac.jp/acessment/hosomidani/051128.htm


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